『きっと、うまくいく』


★★★★☆

ツイッターなどであちこちから良い評判を聞いていたこの作品、期待しながらも「インドのコメディ映画って少しキケンな匂いがするな…」と思いつつ、映画の日に友人たちと鑑賞して来たところ…

こんなに映画館で泣いたのはいつぶりかってくらいに号泣してしまい、観終わった直後には上半期ベスト1決定!!と言わずにはいられないほど気に入ってしまいました。

舞台は日の出の勢いで躍進するインドの未来を担うエリート軍団を輩出する、超難関理系大学ICE。未来のエンジニアを目指す若き天才が競い合うキャンパスで、型破りな自由人のランチョ―、機械よりも動物が大好きなファラン、なんでも神頼みの苦学生ラージュ―の”三バカトリオ”が、鬼学長を激怒させるハチャメチャ珍騒動を巻き起こす。
彼らの合言葉は「きっと、うまくいく!!」
抱腹絶倒の学園コメディに見せかけつつ、行方不明になったランチョ―を探すミステリー仕立ての”10年後”が同時進行。その根底に流れているのは、学歴競争が加熱するインドの教育問題に一石を投じて、真に”今を生きる”ことの素晴らしさを問いかける万国普遍のテーマなのだ。(公式サイトより)
とりあえずあらすじを書いてみたものの、鑑賞からしばらく経っていて抜け落ちているところもありますが、自分の感想をまとめてみます。

最初に、気になったところから。
観る前に予想していた、インドのコメディ映画の笑いは合わないんじゃないかという危惧は、割と的中していた感じです。序盤の飛行機を緊急着陸させるくだり、大学の先輩に洗礼を受けるシーン、などなどほとんど寒くて、ああーやっぱりこんな感じできたか…きついなーって思ってました。比べちゃ申し訳ないけど、セス・ローゲンとかジョナ・ヒルとかポール・ラッドとか究極を言うとサシャ・バロン・コーエンみたいな笑っていいのかさえ危ういブラックジョークを生み出すコメディアンまで出てきてる今、こんなギャグじゃちょっともう笑えないよ、っていうのが正直な感想で…それでも、映画の日だけあってお客さんが多く、さらに年齢層もちょっと高めだったので、この種のお年寄りが安心して笑えるギャグがウケていたのはまだ救いにはなっていたんですが…。

で、中盤?(上映時間が長くてわからなくなっている)の成績2位のクスリ漬けで勉強に勤しむ奴が、学長や教育長に壇上でスピーチをするシーン。ここで急に下ネタが入ってくるんですねー…いや、下ネタって呼んでいいか微妙なラインですが、あそこだけギャグの質が少し違ったような。ヒンディー語で「奇跡」と「強姦」の発音が似ているらしく、ランチョーが原稿を書き換えてしまうんですね。で、なんでも丸暗記のガリ勉君は「学長はこの大学で数々の”強姦”をなされた」とか言っちゃうのがギャグになってるわけですが、これはこれで笑えないよ…という。周りはそこそこウケていたので、僕だけかもしれませんが、「強姦」っていうワードが重く感じられたんですよ。強姦犯罪のニュースを聞くと本当に不快な気持ちになるし、それこそレイパーとか名乗ったりしてるヤツのチンコはハサミとかシュレッダーとかで切断してしまって毛糸と針を渡して自分で縫合させてしまえと思ってるし、AVでもレイプものは嫌いだし…これまた笑えなかった。学長がバカにされているにもかかわらず教育長みたいな人がバカウケしてるのはちょっと面白かったですが。

っていう感じで、ギャグに関しては思い出せる限り笑えたところは1つもない…と書こうとしたんですが、1つ思い出しました!
ランチョー以外の2人が、ワースト1,2の成績をとってしまって、ランチョーの名前が近くに見当たらない…落第か…と思っていたら、トップ1だったというシーンで、「親友が落第するのは辛い。けど、親友が優秀な成績をとるのはもっと辛い」みたいな心の台詞が出てくるところ。こういう、キレイ事じゃない、ちょっと醜いけど嘘じゃない、本当の心情がちゃんと描かれているところは良かったですね。
それと、これはギャグとして笑いを狙ってるわけではないと思われるんですが、何かショックなことがあったら必ず、「ド〜ン!」みたいな効果音がなり、画面に映る人物(大体ランチョーだった気が)が目をむいてびっくり顔をする、っていうシーンが何回も何回も繰り返されて、完全にテンドンと化していて実は一番ツボだったりしました。緊迫したシーンでこれやると逆に笑ってしまうよ!でもなんか、インド映画っぽいなぁ、とか思ったり。
(画像を貼りたいけど見つからない!)

以上、ギャグに関しては概ね微妙だった、ような、気がします。
しかし、ストーリーの根本のドラマ部分、ここが非常に良く出来ていたと思います。

メインテーマの、インドにおける教育の現状と問題提起。実際にインドの大学生の自殺率はものすごいことになっているらしいのですが、家族のみならず村を背負って大学に来ていて想像を絶するプレッシャーを背負わされているのだと。落第になって首吊り自殺してしまった学生、自分が退学させられるか親友を売るかの2択をつきつけられ、どちらも選べず飛び降り自殺を試みたラージュ―、などがごまかさずに映されていて、和気あいあいとした学園コメディに終わらない、現実の影の部分を隠さない辺りが非常に良かったです。すでに散々書いてしまいましたが、コメディ的な笑いの部分と落差をつけつつも、絶妙に相まって全体として一貫した印象を持てる作りになってるのがすごいですね。

個人的に一番グッときたのは、実は写真家になりたいファランが父を説得するシーン。彼は生まれた瞬間にエンジニアになる将来を親に勝手に決められていたのですが、ランチョーに押されて自分のやりたいことを貫くことに。しつこいようですが、細かい部分の記憶がだいぶ抜け落ちていて、ここの会話をあまり覚えていないんですが、父親がなかなか受け入れてくれず、皮肉を言ったりしてなかなか良い顔をしてくれない、それでもファランが言葉を続けて親父に認めてほしいんだ、としっかり時間をかけてこの説得のシーンを描いていたのが良かったです。「なりたいものになるんだ!」ってアイアン・ジャイアントをちょっと思い出したり。こういうものに弱いんです、僕。

それと、完璧で欠点らしい欠点のないランチョーとか、ひたすら悪いやつとして描かれていた学長とか、キャラクター設定に関しては、僕は特に気になりませんでした。オチとかも本当にランチョーはひたすら現実感のない憎たらしいほど完璧なヤツだと判明して、ちょっとイヤになったのも確かなんですが、要はファランとラージュ―の2人が重要なんですよ!ランチョーは神みたいなもんで、諭されて変わることができた2人に着目すべきかと。学長も同じようなもんで、悪魔ですよ。この2人は抽象的な存在だと思って観てました。それよりも気になったのは、ランチョーが一目惚れして、結果的に2度破局させることになったカップルの男のほうの値札くん。あいつが少し可哀想に思えて不憫だなぁと。確かにケチかもしれないけど、そんなに悪いヤツでもないんじゃないかな、とか。

あ、それと、インド映画定番のダンスシーン!
退屈なんじゃないか、とかちょっと偏見を持ってたんですが、序盤の寮のシャワールームのシーンで気持ちが上がって一気に心を掴まれました。

他にも書きたいことがあった気がするんですが、なにぶん時間が長くて内容が濃いこと、観てから時間が経っていていろいろと抜け落ちていたりすることなどなどで、この辺りにしておこうかと思います。
最後に、やっぱり男3人組ものにハズレはないなと。

よくわかってる!『ダージリン急行』を思い出さずにはいられない!

(追記)
面白かったシーンをまた1つ思い出しました。
貧乏学生ラージュ―の実家が70年代みたいだ、っていう話で彼の家のシーンになると、モノクロになるんですが、親父が危篤だ!ってことで急いでバイクで駆けつけて、家に着くとまたしっかりモノクロになるというところ。こういうブラックなこともすんのか!ってちょっと意表をつかれました。
インド映画、侮れないですね。

日本映画はもう世界的にみても相当下の部分にあるんじゃないですか。傑作はあるけど、興行収入ランキングにあがるような邦画は見れたもんじゃないし。ハリウッドよとか言ってたけど、日本は数万光年遅れていて、もう取り返しがつかないんじゃないかと思ってしまいます。

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去年話題になったインド映画。
日本公開のだいぶ前にクライマックスシーンを観ちゃっていたので、鑑賞を先送りしています…予備知識なしで観に行ったらぶっ飛んだかもなぁ。