『L.A. ギャング ストーリー』


★★☆

ロサンゼルス、1949年。ニューヨークのブルックリン生まれのギャングのボス、ミッキー・コーエン(ショーン・ペン)は、麻薬、銃、売春、そして――手段さえあれば何でもするという勢いで――この街を牛耳り、さらにはシカゴから西の広い地域の賭博も仕切っている。そしてそんな彼の活動を守っているのは、彼自身が雇っている手下だけでなく、首根っこを押さえこんでいる警察や政治家たち。コーエンの勢力は、街で鍛え上げられた、極めて勇敢な刑事でさえ怖気づくほどだ……例外はおそらく、ジョン・オマラ巡査部長(ジョシュ・ブローリン)とジェリー・ウーターズ巡査部長(ライアン・ゴズリング)率いるL.A.市警の“はぐれ者たち”から構成された少人数の極秘チームだけ。コーエンの帝国をぶち壊すために集められた“最強部隊”である。 (公式サイトより)
これと『ジャッキー・コーガン』はだいぶ前から絶対に観に行こう!と決めていたのですが、『ジャッキー・コーガン』に関しては驚くほど良い評判を聞かないので早々に見送ることに決めました。対して『L.A.ギャングストーリー』はどうかというと、『ジャッキー・コーガン』ほどは評判悪くないけど、決して褒められていない様子…。ライアン・ゴズリングをやっとスクリーンで拝めるし、監督だって『ゾンビランド』撮ったルーベン・フライシャーだぜ!そんなにひどいことにはならないだろう、と予想して公開初日に観に行ってきたのですが…

そんなに面白くなかった!

つまらないっていうのは言い過ぎだと思うんですが、面白くはなかったです。ポスタービジュアルなどなどから予想するシリアスっぽいムードは実際ほとんどなくて、多分に「バカ映画」の要素を含んだものでした。なんですが、この映画はそれがものすごく中途半端なんですよね。はじめはシリアスもの(というかギャング映画の系譜にあるようなもの)かと思って観ていたら、どうもツッコミどころがありすぎる。そうか、これはバカ映画なのか、ルーベン・フライシャーフィルモグラフィー的にはこっちのほうがしっくりくるし!とそのつもりで観ていても、どうも違う。いや、バカ映画ではあるんだけど、悪い意味でのバカ映画になっちゃってて、いまいち乗れないなーという感じで、エンディングまでいっちゃいました。

ということで残念な点をいくつか列挙しておきます。

1.残酷描写がほとんどない、弱い。
冒頭、ショーン・ペン演じるミッキー・コーエンが、牛裂きの刑の車版(車裂き?)で拷問し、殺すシーンから始まったときは胸が高まりました。ギャング映画といえばどれだけフレッシュな残酷描写があるかがポイントでしょう。が、これ以降全く残酷シーンがない。弾数だけは多い銃撃戦がほとんどで、がっかり。途中、失態を犯した手下を処罰するシーンで、ドリルを手にとったところでやっと来たかと思えば、すりガラス越しになって血しぶきだけ。冒頭のシーンでは上下に別れた体を犬に食わせたりしてたじゃん!引き裂かれる音はもっとリアルでも良かったかな、と思ったくらいだったのに蓋を開けてみればそこが残酷描写のピークだったのは本当にがっかりです。実際、あまりにもミッキー・コーエンの残酷な様子が見れないし最後まで大して悪い奴に見えなかったため、ストーリーに乗れず、当然クライマックスの戦いも燃えませんでした。

2.チーム感の弱さ

原題の『Gangster Squad』っていうのはオマラ刑事たちが「ギャング集団」となってギャングさながらの襲撃をするっていうところからとってあるんですよね。オマラ刑事とライアン・ゴズリング演じるジェリー・ウーターズがツートップで、他にもナイフ使い、盗聴担当、射撃の名手とその手下のメキシコ人っていう6人チームなんですが、ツートップ以外のドラマはほとんどないんですよねー…。ナイフ使いは中盤に1回、射撃の名手とその手下は終盤に1回、「魅せる」シーンがあるんですが、どうもあっさりしすぎてる。タイトルになっているくらい、チームに着目しているわけだから、やっぱりそれぞれの背景、ドラマをもっと絡ませて、終盤でそれぞれに見せ場をつくんないと!盗聴担当だけ唯一殺されてしまって、残された家族の様子も映されていましたけど、ドラマが深くなったわけでもなく無くてもいいようなシーンでした。ジェリーのほうもあってないようなドラマでしたよ。もっと言うならオマラ刑事のだって大した話ないよ!

3.ドラマがない

上の最後の部分とつながりますが、ほとんどの登場人物にドラマがない。別に長々と語らなくったって、1シーン、1セリフ、1つの間でその人物が見えたりするんです。それが全くない。だから、ただただどうでも良くみえる。ジェリーははじめ、オマラ刑事のチームに入るそぶりなんて全然見せないんですが、目の前で知り合いの靴みがきの少年がマフィアの銃撃にあって殺されて、態度を変える。銃を取り出してギャングを返り討ちにし、地面に倒れている奴に銃を向け「お前警察だから撃てないだろ?」と言われ、「もう違う。(Not anymore.)」と銃をバーン!!ちょっとカッコ良かったけど、いまいち乗れない…。理屈は通っているみたいだけど気持ちが伝わらないっていう感じ。キャラクタービルドが甘い。ミッキー・コーエンは、自分の娼館を襲撃したオマラ刑事のことを恨んじゃいない、むしろ賞賛されるべきだ、と彼ならではの哲学を見せるようなセリフがあったのですが、特に一貫しているわけでもなく、物語に活きているわけでもない。最後もあんだけ強いミッキー・コーエンがオマラ刑事に格闘戦で負けるっていう本当にただご都合主義なだけの負け方でがっかりでしたね…。

4.バカ映画なら振り切れろ

オマラ刑事の奥さんは、はじめギャングに戦争しかけることに反対しているんですが、ふっやっぱりあなたってしょうがない人ね、でもそんなとこが好きよ的な感じで、チーム編成のときには「あなたにふさわしいのはこういう人よ!」とメンバーを片っ端から決めていくノリノリぶり。バカ映画のテイストがこの辺りから漂いはじめた感じです。それならそれでいいんだけど、自宅が襲撃されてからしょぼーんとされても同情できないよ!ギャングに戦争しかけるってのはそういうことだろ!わかってなかったの?「ギャング集団」が、カジノを襲撃するシーン、ヤクを運ぶ車を追跡して戦うシーン、マジなのか笑いとりたいのかわからない。「やられる!」じゃねーだろ!襲う側なんだから!ジェリーが「あんたにはついていけない」って言うセリフで少し安心したものの、その件が結局「エマ・ストーンが殺される危険にあるからやっぱりミッキー・コーエンは野放しにできない」っていうことでチームに戻ってくるためにうやむやになってしまっている。最後の銃撃戦で、オマラ刑事が弾切れ起こしたジェリーにマガジンをすっとかっこ良く滑らせて渡そうとするんだけど、変なとこで止まっちゃうシーン。ここは笑うとこだったと思っているんですが、そういう意図ならもっとやりようあるだろうと。オマラ刑事がやべって顔してたりとか、ジェリーが口開けてたりとか。単なるトラブルを演出したかったのなら、他のパターンが良いです、あれはマヌケにしか見えない。とにかく、「ギャング映画」がやりたいのか「バカ映画」がやりたいのか最後までフラフラしてて、リアリティ・ラインの設定に失敗して結果どっちもうまくいっていない。
ちなみにギャグとシリアスなドラマは両立し得るものだと思います。例えば、卑近な例ですが、『アイアンマン3』はまさにそれが出来ていました。この映画では、笑いの部分がストーリーに水を差しちゃっててやっぱり中途半端な仕上がりになり、結果笑えもしないしストーリーにも乗れなくなっちゃってるんだと思います。周りのお客さんも笑っていいのかどうか戸惑ってる感じでしたよ。笑っていいのかどうかわからない感じは、ミッキーと聞いたジェリーが「ミッキー・マウス?」って返すシーンに最も象徴されている気がします。

いまいちまとまっていないし、他にもツッコミどころたくさんあるんですが、大体上の4つのことが言いたいことです。

エマ・ストーンも好きな女優なんですが、この映画では別に可愛く見えなかった。エマ・ストーンは、誰もが惚れる美人!っていう役よりも、普通の女の子っぽいキャラのほうが合ってる気がします。横乳全開のシーンは良かったですね。あのシーン、劇場の男たちが食い入るように観ているのが伝わってきた気がしました。一方、ライアン・ゴズリングは良かったです。エマ・ストーンとのタッグで『ラブ・アゲイン』をどうしても連想してしまいますが、2人で朝食を食べるシーンでキレるところ、そこで見せる陰りのある顔。『ラブ・アゲイン』ではコメディ路線をうまくこなしていたと思いますが、ライアン・ゴズリングの魅力はやっぱり怒りに燃え、復讐に向かうときの”血の通っていないような、身の毛がよだつ冷酷な顔つき”だと思うんです。『ドライヴ』はまさにそれでした。

この顔!

それと、好きだったシーンが1つあって、エマ・ストーンを庇っているジェリーの同僚?らしき人物が、ミッキー・コーエンとその手下に見つかって、まず手下を格闘で倒す。元プロボクサーであるミッキー・コーエンにそのまま格闘戦を挑むんですが、ミッキー・コーエンは「もうボクシングはやめたんだ」とあっけなく撃ち殺す。ここは不意をつかれました、悪役感が非常に出ててよかったシーンでした。

とまあ全体的に批判する感じになってしまいましたが、そもそも去年中に公開予定だったこの映画は、コロラド州オーロラの銃乱射事件の影響でカットしたシーンがあったりするんですよね。だから、本当に見せたかったものを僕たちは観れていないはずなので、あまりああだこうだと批判するのは野暮のような気もします。が、それでもそこまで変わらない気もするので、言わせてもらいました。

さあ次のライアン・ゴズリング主演映画、『ブルー・バレンタイン』のデレク・シアンフランス監督作品『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ』が5月末に公開なのでこれは期待しています!この前のたまむすびで町山智浩さんは苦言を呈していましたが、楽しみにしています!


原題:Gangster Squad(2013/アメリカ)
監督:ルーベン・フライシャー
脚本:ウィル・ビール
原作:ポール・リーバーマン
出演:ジョシュ・ブローリンライアン・ゴズリングショーン・ペンエマ・ストーンニック・ノルティアンソニー・マッキージョヴァンニ・リビシマイケル・ペーニャロバート・パトリック、他
(鑑賞:2013/05/03)

L.A.CONFIDENTIAL-ブルーレイ・エディション- [Blu-ray]

L.A.CONFIDENTIAL-ブルーレイ・エディション- [Blu-ray]

邦題が参考にしたと思われるギャング映画。なかなか面白かった記憶が。

警察VSギャングもの。直球のシリアス路線で、どちらの側もよく描けていたし、すごく面白かったです。デンゼル・ワシントンは悪役顔、と思っているのはこの映画のせいかもしれません。

ゾンビランド [Blu-ray]

ゾンビランド [Blu-ray]

これにもエマ・ストーン出ていましたね。
ゾンビものバカ映画。本人役で出てくるビル・マーレイ含めキャストが素晴らしいです。