『桐島、部活やめるってよ』

★★★★★

最近ようやく二度目の劇場鑑賞をようやくしてきましたので、一応「新作映画」ということで上げておきます。

一度目はKBCシネマで11月にこの映画が公開されていたのですが、その最終日に行ったので2回観ることができなかったんです。そもそも8月公開の映画で、十分タイミングが遅いんですけどね。どうもタイトルがクサく感じたのと、予告編観てもあまり食指が伸びなかったのと、去年は今ほど「映画館で映画観たい!」という気持ちがなかったんです。しかしそれからもあまりに良い評判ばっかり聞くので、これは行くしかない、と最終日になって決めたところ、「2012年ベスト1!!!」と叫びたくなるくらい、僕には大事な映画でした。

それで、初めてブルーレイを予約して買ったのですが、3月にユナイテッド・シネマキャナルで再映する!とのことだったので、手元に届いてからも「もう1度劇場で観るまでは観ないでおこう」と決め、封印しておりました。

そして、感想なんですが、語ろうと思えばいくらでも語れる作品なのでできるだけ手短にします。

まず、僕にとって「こいつは俺だ!!」と思えるような人は、この映画には出て来ませんでした。何人かに、自分と思い当たる節があるという感じ。それは、前田と武文をベースとして、宏樹、友弘あたりもちょっと入ってる、そんな感じです。まあぶっちゃけ中途半端なポジションです。自分は高校生の時、帰宅部にはいっていたので、まず部活生ではないと。それで、何をしていたかというと、中学生の頃からベースを始めていて高校でも学校の外でバンド活動をしていたんです。日本では、バンドやってるやつって、特に高校あたりだとそうだと思うんですが、ヒエラルキーは自然と上のほうにくると思います。なんですが、学校内ヒエラルキーの上にいる人達(男子も女子も)のノリというか付き合い方というか、そういうものが苦手なので、真ん中くらいの人たちと付き合っていました。でも、ヒエラルキー的なものをほんとに忌み嫌っていた。

当時の趣味はもっぱら音楽で、レッチリを始めとして、the Mars Volta、TOOL、John Butler Trioなんかをひたすら毎日聞いてました。映画はたまに観る程度で、あとは松本人志にものすごくはまっていたりとか。女の子とそれなりに話していたりしましたが、基本的にはものすごい苦手で。好きな子は特にできなかったし、彼女もいませんでした。で、それぞれの趣味の話ができる友達が少しはいましたが、フラストレーションは結構溜まっていました。映画や音楽で、明らかにこれはねーだろと思うようなもので周りが感動していたりするのをみると本気で胸糞悪くなったり。

それで、大学でバンドサークルに入って、一気に自分の周りに、自分のフィールドだと思っていたジャンルにもっと明るい人達が大勢いて、そういう人たちに自分が知らなかった音楽や映画を教えてもらって、もっと深い見方があるのを知ったりとかして、世界が広がったのと同時に、自分の「井の中の蛙」っぷりを恥じたりとかして。今だにオタクだ!なんてとても言い切れません。けど、根っこにあるのはやっぱりオタク的な部分だと思うんです。それはやっぱり、映画や音楽に触れている時や、そういうものについて話しているときが何よりも幸せなので。

映画の話に戻りますが、(結局長くなっている)この映画を観ると前田と武文が輝いて見えて仕方ないんですよ。ヒエラルキーの最底辺で、バカにされて笑われて相手にもされないんだけど、やりたいことをやっている。僕も自分のやりたいことをやっているつもりだったけど、ヒエラルキー的な心配はなかった。能動的に、積極的に周りの冷たい目に立ち向かっていくオタクの「今に見てろよ」精神がなかったんです。そういうことが僕にはできなかった。正直ヒエラルキーが下になるのを恐れていたし、そうならないように動いていたとも思う。本当に中途半端で弱い人間だと自分で思うから、この映画の2人がオタクとしてやりきっているのを見ると素直にかっこいいな、と思えるんです。ゾンビ映画を撮り始めたころなんて、輝いて見えて仕方なかったです。

当然、クライマックス、ヒエラルキーが上の連中に復讐するシーン、一瞬ヒエラルキーが崩れるあのシーンはもう最高で最高で涙が止まりません。この映画で一番好きな台詞、今まで観てきた映画の中でも一番といっていいほど好きな台詞、「ロメロだよ、それくらい観とけ!!」を連中に浴びせかけるシーンなんて、本当に溜飲が下がるし、カタルシスのピークを感じます。僕はゾンビ映画に全然精通していないので、前田に言われているような気もするけど、置き換え可能な部分でもあるので。

なんですが、この映画はそこで終わらない。タマフル宇多丸さんが言っていたところの、「小さい溜飲を下げて終わらないのが良い」。宏樹の話にいくんですね。僕は彼でもある(あんな女を彼女に絶対したくないし、「できる奴」ではないけども)ので、前田にカメラを向けられたときに泣いてしまった彼にものすごく共感を覚えました。ずっとそれが言葉にできなかったんですが、町山さんが「実存的不安」と仰っていたのにしっくりきました。自分の目には輝いて写る前田に、「かっこいいね」と言われたことが恥ずかしくて恥ずかしくてたまらないんですよね。本当は自分なんて穴のあいた空洞なんだと。25歳の僕は今だにこれを猛烈に感じています。大学院を留年していて、本当は就職活動をしなくてはならないんですが、一歩も動けない。自分が好きなことを仕事にしたいのか、そうでないのかも分からない。どうやって生きていけばいいか分からない。もう手遅れな気もしている。ホント甘えてんなこいつ、と自分で思います。このブログのタイトル、「escape from cinema」は、映画に逃避している僕を皮肉って捉えたものです。

と十分長くなってしまいました。
まだまだこの映画について語りたいところはあるんですが、このあたりにしておきます。

2度目の劇場鑑賞できたということで、特典DVDをやっと観たのでそれについて少し書きます。まず、「松籟高校フェイクインタビュー集」。これは、劇中の主な登場人物にインタビューするというものなのですが、より深く人物を掘り下げられるようなものもあれば、解釈を狭めてしまうようなものもあって、観たほうがいいけど、できれば観ないほうがいいかも、と思えるような内容でした。

面白かったのは、メイキングとビジュアルコメンタリー。メイキングには、吉田大八監督が役者にしつこく、細かく演出をつけている様子がたくさん写ってます。嘘くさくなくリアルに見えるように、人によっていろんな解釈ができるように、どれだけ趣向を凝らされていたのかわかります。
複雑な構成の映画なので、一つ一つのシーンに綿密な打ち合わせをしていて、クライマックスシーンは撮影に1週間もかけていた!などなどわかって面白いです。あと、キャストの素の表情や会話を見れてほっこりできます。美果役の清水くるみちゃんが、誰かがクランクアップするたびに泣きまくっていたり、クランクアップする側も大抵泣いていたり、クライマックスのゾンビが襲うシーンの後、「大丈夫?」「余裕余裕!」とお互い気にかけあったりしてて、それはもう和みます。

ビジュアルコメンタリーは、映画部の前田役の神木隆之介、武文役の前野朋哉帰宅部の竜汰役の落合モトキ、友広役の浅香航大、バレー部の風助役の太賀、久保役の鈴木伸之、日野役の榎本功の男子7人が出ています。最後の日野は劇中数シーンしか出てこない、「親ネットワーク」という台詞がある人です。「親ネットワーク」はスタッフやキャストの中でネタになっているらしく、また、榎本功は完全にいじられキャラにされてます。このコメンタリーでは、1回目の「火曜日」からエンディングまでの46分を追っていきます。この撮影はこんなだった〜とか、この台詞は実は本気でぐさぐさきていた、とかこの女の子、というかこの女優どう思う?とか裏話がたくさん聞けます。しかも、お互いにボケたり突っ込んだりしながらやってて、見てるこっちも楽しめます。教室で、かすみと竜汰が2人でいるところを前田が見てしまうシーンなんて、竜汰役の落合モトキが極悪ポーズしてたり。てめぇ!!!と胸ぐらを掴みたくなるほどのヒールぶり、ネット上で「あのパーマ殺す」って書かれていることも知っていたというね…!

そういうわけで非常に面白いんですが、ノリノリで話しているのはほとんど帰宅部やバレー部の男子。キャスティングリアルすぎんよ!!素だったんじゃねーか!!まさかここでも前田や武文に同情するとは…劇中よりマシとは言え、他の5人とは明らかにノリが違ってちょっとこっちがいたたまれなくなってくるような…いやほんとに、役者の素を活かしたキャスティングだったんだなぁと思いました。劇中の役を自分が引っ張りすぎてるだけの気もしてきましたが。屋上での橋本愛ビンタシーンに、「っしゃーおらぁ!!」「よくやったぁ!!」「やっちゃえやっちゃえ!!」とか、そうそう!っていうところもあったり。と、いうわけで新しい発見もあったり、みんながもっと好きになる、良いビジュアルコメンタリーでした。強いて言うなら、女子のビジュアルコメンタリーも欲しかった!!ものすごく!!

それと最後にWOWOWぷらすとのっけときます。

この映画観ると、こんな感じで話したくなるし、こんな話を聞きたくなります。

そんなわけで、『桐島、部活やめるってよ』、自分にとってすごく大切な映画です。


鑑賞:2013/03/15(初鑑賞:2012/11/16)
監督:吉田大八
脚本:喜安浩平、吉田大八
原作:朝井リョウ
出演:神木隆之介橋本愛東出昌大、清水くるみ、山本美月松岡茉優、落合モトキ、浅香航大、高橋周平、鈴木伸之、太賀、大後寿々花

桐島、部活やめるってよ (本編BD+特典DVD 2枚組) [Blu-ray]

桐島、部活やめるってよ (本編BD+特典DVD 2枚組) [Blu-ray]

気に入った方はぜひ買ってください。
本当に本当に数少ないヒットした現代日本映画の良作、応援してまた良い映画を撮ってもらいましょう。