『ホーリー・モーターズ』


★★★☆

ひとつの人生からもうひとつの人生へ、旅を続けるオスカーの1日。
ある時は富豪の銀行家、またある時は殺人者、物乞いの女、怪物、そして父親へと、次々に姿を変えてゆく。
オスカーはそれぞれの役になりきり、演じることを楽しんでいるように見えるが…、どこかにカメラはあるのだろうか?
ブロンドの運転手セリーヌを唯一の供に、オスカーはメイク道具を満載した舞台裏のような白いリムジンで、パリの街中を移動する。
行為の美しさを求めて。アクションの原動力を求めて。そして彼の人生に登場した女たちや亡霊たちを追い求めて。
だが彼の家、家族、そして休息の場所はいったいどこにあるのだろうか?(公式サイトより)
久しぶりに映画の日に映画館行ってきました。普段に比べてお客さんも多かった様子で、イベント感があってちょっと嬉しかったです。普段からもうちょっとお客さん多いと特にコメディ映画なんかは楽しさが倍になるんですが、福岡はなかなか席が埋まらないです。楽に観れるっていう利点もあるんですけどね。

さて、『ホーリー・モーターズ』の感想なんですが、序盤から眠気に襲われちゃって、最後まで頭がボヤボヤしてたのでこの作品に何か言える立場ではないという…。周りでも結構寝ちゃってる人いましたが、すごく抽象的で、少ない台詞と、「画」からできる限りの情報を集めながら観るタイプの映画で、正直そういう予想はしていたし、あまり得意ではないタイプの映画なんですが、たかをくくって行ったところまんまと寝てしまいました。

この種の映画を観るとき、どうしても考えてしまって、ああだこうだと自分の頭のなかでやってるうちに飽きてきてだんだんどうでも良くなってくるっていうパターンが多いんですが、今回はコンディションも悪く、上映時間が2時間未満とはとても思えないほど長く感じました。どうでも良くなってからもまた考え始めちゃったりね。ものすっごい疲れた…。

でも、「全然意味わかんね。クソ映画じゃねぇか!」とはならなくて、それはやっぱり「なんかわからんが面白い」っていうことなんですよね。おっさんがいろんな人物に変装してそのキャラクターになりきって、っていう設定の時点でわくわくするものがありますし、間にエージェントっぽい人や同業者らしき人が出てきたりして一体どういうことなんだろうと興味をかきたてられるような作りになってました。

おっさんの変装の中で、一番好きだったのが”怪人”メルドで、『TOKYO!』を観たときも気に入っていたのですが、このキャラクターは一体なんなのだろうと毎回頭が混乱させられます。

登場からしばらくは、『TOKYO!』のときと同じで、すごく楽しいんです。ゴジラの音楽が流れて、タバコ吸いながらふらふら歩いて、辺りにある花を食い散らかして、邪魔な人を突き飛ばして…っていう。今回は手振れがなくてメルドが歩いて行く様子を綺麗に追って撮れていてこれがまた前に増して良くて。で、この辺りまではにこにこしながら観てるんです。実際会ったら引きまくるだろうけど、こんなに「自由」を感じさせるキャラクターっていないな…とか思いながら。
が、その後、めちゃくちゃ可愛いカメラマンの助手をやっている女の子の指を急に食いちぎるシーンで、サーっと冷めてしまう、引き戻されるというか。こちらの理解を超えた存在、怪物であるっていうことを改めて認識させられて、僕たちのもってる尺度が全く通用しない相手だということが思い知らされる。『TOKYO!』でも似たような展開があった気がするのですが、この掴めないメルドというキャラクターがやっぱり好きなのです。
(人見知りしていたら、知り合いに会えてテンションが急に上がった的な感じもあったかも。)

それと、一番好きだったのがこのシーン。

字幕では「インターミッション」と出て唐突に始まるこのシーンですが、映像と曲のかっこ良さが相まって、純映画的興奮を味わえる、拍手して歓声を上げたくなるほど最高のシーンでした。このドニ・ラヴァンかっこ良すぎる…!こちらに向かって歩いてくる様子から、例えば銃を向けても怯むことなく演奏しながら歩き続けるだろうと思わせる、たくましい強さを感じ、何かを迫られているような気がしてきます。このシーンには監督のサービス精神を感じずにいられません。
ホーリー・モーターズ』、さきのメルドやこのシーンみたいな、歩く人物をカメラがスムーズに動いて綺麗に撮る(上手い言い方ができなくてごめんなさい)映像がすごく良かったです。画に関して言うと、この映画の1シーン1シーンどれもが美しくて、どのカットも惚れ惚れするほど本当に綺麗なんですが、それだけに字幕がものすごく画を邪魔しているように見えました。特に、終盤の歌のシーンなんかは字幕が画の邪魔になっているだけでなく、字幕で歌詞のメッセージを説明されている”説教臭さ”があって、久しぶりに「原語で観れる人がうらやましい」状態になりました。歌詞が字幕で出てくるときにいつも思うんですが、歌と別にメッセージを押し付けてくる、しつこい感じがしちゃうんですよね。その点『Drive』の”A Real Hero”は驚くほどわかりやすい英語で助かりました…

いまいち『ホーリー・モーターズ』わかった感じは全くしないし、退屈に感じたシーンもありましたが、もう1回くらいは観てみたいと思ってます。お金がないので映画館にはたぶんもう行きませんが、DVDもしくはブルーレイが出たら手が出そうです。


原題:Holy Mortors(2012/フランス・ドイツ)
監督:レオス・カラックス
脚本:レオス・カラックス
出演:ドニ・ラヴァンエヴァ・メンデスカイリー・ミノーグミシェル・ピコリ、エディット・スコブ、レオス・カラックス
(鑑賞:2013/05/01 KBCシネマ)

TOKYO! [DVD]

TOKYO! [DVD]

ミシェル・ゴンドリーレオス・カラックスポン・ジュノの”TOKYO”短篇映画。
はじめから順番に好きです。ミシェル・ゴンドリーはやっぱり長編向きではない気がする…