『パラノーマン ブライス・ホローの謎』

★★★★

この映画、全く注目してなくて観に行く予定はなかったんですが、いろんなところで良い評判を聞いたのと、3月29日に公開されたにも関わらず全国のほとんどのTOHOシネマズで明日公開終了と聞いて、妙に「これは応援せんといかん!」と思い立ち、健康診断直後に映画館に向かい、10分前に着くと席は1つしか埋まっておらずそれも休憩に入ったようなおっさんで、事実上の観客は僕一人でした。くっ…頑張れ『パラノーマン』!!!

正直予告編観ても大して惹かれず半信半疑の気持ちだったんですが、オープニングでノーマンが道端にいるいろんな霊たちと楽しそうに会話しながら登校しているところで涙腺が緩みだし、がっちり心を掴まれました。
一つには、キャラクターがすごく可愛く思えたからです。
シュガー・ラッシュ』は確かに面白かったんですが、キャラクターで気に入ったところはあまりなくて、すでにこのブログでも書いたように特にフェリックスなんて気に入るどころか嫌いだったくらい。
一方『パラノーマン』の主人公ノーマンや太っちょの友達ニール、ノーマンの家族や叔父など、造形がとてもキュートで、暖かみを感じるようなキャラクターで馴染みやすくて変な違和感を覚えることなくすっと映画に入れた感じがしました。

↑ジェイソンみたいな姿をしたニール、最高に萌えた…!

それは完成された出来栄えのストップモーション・アニメの持つ力もあったでしょう。
が、個人的なことなのかも知れませんが、あまりに良くできたストップモーション・アニメを観ていると、キャラが物凄く滑らかに動いていてコマを感じないため、自分が今CGアニメを見ているかのような錯覚に陥ってしまうんです。
映画は通常24コマで1秒、『パラノーマン』では20時間29分撮影してから編集したそうなので177万601コマ、身体を少しづつ動かしたり、パーツを交換しながら撮ったという気の遠くなるような作業が裏にあるわけで、CGアニメのように見てしまっては申し訳ない、スタッフの鬼のような努力が陰にあるのだから!と自分に言い聞かせながら観ていましたが、いまいち自分はこの映画のストップモーション・アニメとしての凄さを理解できていないんじゃないか、という気がしてなりませんでした。

脚本に関しては、特に上手い!と思ったわけじゃないですが面白かったです。
「人は集団で暴力を働くと歯止めが効かなくなる」っていうのは僕の研究テーマでもあるところで、実は全く攻撃してこないゾンビを敵視して暴徒化する人々を見ていてリアルな人間の怖さを感じました。
ギャグも散りばめられていて、結構笑えました。
ノーマンの叔父が倒れる→幽体離脱のように体から霊が飛び出る→霊が体に戻って復活、ふーっ危ない危ない…→倒れて死ぬ
この一連が一番面白かったです。あとで、ノーマンがこの叔父のもとを訪れるときに、叔父がノーマンの上に倒れてきて舌がべろ〜ってノーマンの顔にふりかかるとこの悪趣味さ、サム・ライミの『スペル』に通じるようなものがありました。

特に面白かったのは終盤の展開。死人と話せる能力を持った主人公、200年前に処刑された恨みを今だに持っている魔女が相手、寄り添って気持ちを和らげるようなよくある展開を想像していたのですが、『パラノーマン』では「200年前のことを君はずっと引きずっていて、悪い思い出ばかりが残ってただ残酷になってしまってる」と突きつけ、最後は女の子の姿に戻った魔女に「これからは君が決めるんだ」と安らかに成仏させる。
変に湿っぽくなく、少し重さをもって、余韻を持たせる運びにグッときました。

それとエンドロール後の、ノーマン製作過程も凄かったですね。
早くて大体しかわかんなかったけど改めて全部手作りなのか…!!と衝撃を受けました。
出来上がったノーマンがふわぁ〜ってあくびして起き上がって歩いてフレームアウトして終わり、ってもうたまんない!!
こんな終わり方されたらもっかい観たくなるじゃん!!

シュガー・ラッシュ』と公開時期がかぶってしまった点が悔しいところです。
相手はあのディズニー、今まで虐げられてきた「フリーク」が町を救うというプロットのこの映画が劣勢と聞いてどうしても応援したくなったわけです。
『パラノーマン』の製作会社のライカの次回作にサイモン・ペッグニック・フロストが出演するらしい、でもこのままじゃ日本での公開が危ぶまれるとの情報を事前に耳にしたのもあります。

それにしてもTOHOよ、去年の『ディクテーター』といい2週間で公開終了はあんまりじゃないか…!
最近になって『パラノーマン』の口コミが増えてきて少しづつ熱が上がってきているというのに…!
コドモ警察』とか『だいじょうぶ3組』とか流すくらいなら…ってごめん観てないけど!そのへんは観てないけど、いつまでも『レ・ミゼラブル』流してないで『パラノーマン』長くやってくれよ!!
こういうこと平気でするんで、TOHOシネマズはどうも好きになれません。『ザ・マスター』も明日までだし!お金ないよ…(完全に自分の問題)
けど、劇場のスタッフさんはすごく感じが良くて、終わったあと客は僕1人しかいない(おっさんはエンドロール始まったら出て行った)のにドアの前で待っててありがとうございました〜って笑顔で言われて、さらにほっこりした気持ちになって劇場を後にしましたよ…!とにかくTOHOシネマズの上の人お願いしますよ。
口コミってちょっとは時間がかかるんだから。わかってるだろうけどさ。

とにかく、『パラノーマン』の公開は明日までだけど、徐々に広がってる口コミ効果で最終日の観客増えればいいなぁ…


原題:Paranorman(2012/アメリカ)
監督:サム・フェル、クリス・バトラー
脚本:クリス・バトラー
製作:トラヴィス・ナイト、アリアンヌ・サットナー
出演:コディ・スミット=マクフィー、タッカー・アルブリジーアナ・ケンドリックケイシー・アフレッククリストファー・ミンツ=プラッセレスリー・マンジョン・グッドマン、他
(鑑賞:2013/04/11 TOHOシネマズ天神本館)

寝ながら観てたら20分くらいで完落ちしてしまったという…
面白くなってきたあたりだったので続きが気になってます。