『愛、アムール』


鑑賞:2013/03/15

原題:Amour(2012/フランス、ドイツ、オーストリア
監督:ミヒャエル・ハネケ
脚本:ミヒャエル・ハネケ
製作:マルガレート・メネゴス
出演:ジャン=ルイ・トランティニャンエマニュエル・リヴァイザベル・ユペールアレクサンドル・タロー

★★★★

悪名高いミヒャエル・ハネケの作品を劇場で観たいな、と思ってユナイテッド・シネマキャナルに行って来ました。
大まかなストーリーラインは察していたので、今回はそういう作品じゃないことはわかっていましたが。

ざっくりストーリーを書くと、
長年連れ添ってきた夫婦、ある日突然奥さんが病に冒されて入院し成功率95%と言われていた手術をするも失敗する。
奥さんは入院を拒み、夫は自宅で献身的に奥さんを介護するが、次第に病は悪化していき、体の不自由のみならず会話すらまともに出来なくなり、認知的にも…。
という感じ。

で、エンディングもう書いちゃいますが、夫は奥さんを殺してしまう。
そして明示されないんですが恐らく夫は自殺し、娘だけが残って画面が暗転…

これで『アムール(愛)』か。うーーむ…どういうことなんだ…という気持ちで劇場を後にしました。

夫が妻を殺してしまうというところを、どう捉えるかだと思うんです。
介護をする側からして、相手の体が不自由なのはまだ乗り切れるとしても、会話も、認知もままならなくってしまう状態は本当に苦しいと思う。
特にそれが肉親、この場合夫婦という関係性なのでなおさら。

僕は、この夫の決断にものすごく同意できるし、ある意味で正しいことだと思います。
自分を夫と認識しているかどうかさえ分からない妻が天命を全うするまで介護を続けて、添い遂げるのは正直なところ、「我慢すること」でしかないと思うんですよ。
もはやそれが相手にとって幸せなのかどうかもわからないわけで。

もし、僕が奥さんの立場に置かれたら、この決断をしてくれたほうが嬉しい。
自分の介護で疲弊させるだけ、しかも疲弊させていることにすら気づけないわけで、「ありがとう」すら相手に言えなくなってしまったら、相手のことを愛していればいるほど、それはとても耐え切れない状況だと思う。
だから、その状況から解放させてくれることは素直に喜べることだと思っています。

けど、それを「愛」ゆえの行動、と言ってしまうのはエゴな気がするんですよ…。
奥さんがそう感じるのはいいんです。
でも夫は「愛」といってしまっていいんだろうか…?

夫が妻を殺すシーン、夫が「痛い、痛い」とうなり続ける妻をなだめようと、自分の昔話を始める。
そして、その話が終わらないうちに妻が寝入ってしまったところで…枕を掴んで妻の顔に押し当て、窒息死させる。

ストレスがピークに達して突発的にやってしまったことのようにも見えるし、もしかしたら前々から「妻を殺して自分も死のう」と節々で考えていたのかもしれない。
僕ははじめ、前者のように見えたので「あーー、とうとうやってしまったか…でもこの夫を誰も責めることはできないよなぁ」とか思ってたんです。
でも、観終わっていろいろ考えてるうちに、他の見方が浮かんだ。それが、後者なわけですけれども。

多くは語らない映画なので、こういうふうにいろいろ考える余地がありますね。
まだ着地していません。
もしかしたら、ハネケはこの映画で「これが愛なんだ!!この状況に陥ったらこうすることが全くもって正しいんだよ!!」とハネケ流新ルールを広めたかったのかも、とかもちょっと思っちゃいました。
それは、半分これまでどおりのハネケの意地悪なところから、半分は本当に優しさから言っているようにも思える。

観終わったあとにいろいろ考えているうちにあ、この映画良かったのかも、と思えるものでありました。


ちょっと話は脱線しますが、僕が最もぐっときたシーンは、妻が認知的にも不自由になっていて、もうコミュニケーションがままならない状態に陥ったあと、夫が昔2人でダンスをしたときの話をするんですが、ここで妻はきちんと「会話」するんです。
いや、もしかしたら単なる偶然なのかもしれないけど、そう見える。
極上の喜びを感じました。
もしかしたら…!という希望が持てた。
まあそのあと結局戻っちゃうので、希望を持たせて叩き落そうという場面だったのですが、希望が見えた瞬間本当に嬉しかった。

とにかく…『愛、アムール』、若いうちに観ていて良かった映画だと思います。



(追記)
この映画の妻を殺すシーンを思い返していたら、やっぱりあれは…ひどくないか!?少なくともあの殺し方はひどすぎるよ!!と考えるようになり、
夫の決断を正しいといっていいものかどうかも分からなくなりました。
尊厳死肯定派なのは変わらないけど、愛している人を殺すなんてこと、ましてや自分の手にかけるなんてこと、できるだろうか…?
実際に自分がその状況に置かれるまで、わかんないでしょう。


(追記2)
印象的だった冒頭のシーンを思い出しました。
コンサートの観客が映し出されるシーン。
スクリーンに鏡を置かれたような感じがして、初めて感じる妙な違和感があって面白かったです。
あそこまで席は埋まってなかったですが。笑


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ミヒャエル・ハネケといればこれ!!(しか見ていない)
情無用!希望など皆無!いやーな気分になれること間違いなし!