『横道世之介』


鑑賞:2013/03/08

2013年
監督:沖田修一
脚本:沖田修一、前田司郎
出演:高良健吾吉高由里子池松壮亮伊藤歩綾野剛朝倉あき佐津川愛美國村隼、きたろう

★★★☆


僕が大好きな『南極料理人』の監督、沖田修一の新作ということでユナイテッド・シネマキャナルに観に行って来ました。

お客さんの入りは少なめ。年配の人が多めだった印象で、笑い声が漏れたり、鼻をすする音が聞こえたりして良い環境でした。
ここで笑うのか!泣くのか!って人によってツボが違うのが、こういう映画を映画館で観るときの醍醐味ですね、特に年配の人の反応が大きくて面白かったです。

映画は、ゆるくてゆったりしたような感じで、人によっては160分の上映時間が長すぎると感じるようです。
僕的にはむしろ足りない、と思っちゃうくらいでした。
ただゆったりしてるシーンが思いの外多くて、ポップコーンを買ったもののものすごく食べにくかった…半分以上残して捨ててしまいました。


さて、『横道世之介』。
すでに書いたように、僕は上映時間もっと長くてもいい、もっと観たい!と思ってます。
それは、脇役が魅力的で、彼らのストーリーをもっと知りたいと思ったから。
特に、ゲイの加藤!
ハッテン場となっている公園でのカミングアウト後のすいかを分け合うところなんて、今までの加藤のどことなく余所余所しい印象から、ああ、ちゃんと打ち解けてたのねって安心できる素晴らしいシーンで大好きだったんですが…(その直前の加藤宅にてすいかを切ってあげながらサンバを踊っちゃう加藤も良かったです)
あと、倉持。
この映画で一番うるっときたのは、倉持が引越しを手伝ってくれた世之介に泣きながらありがとな、っていうシーン。
「頼めるのお前しかいなかったんだ。」
ここで涙ポローッ!
しかも、泣いてる顔を真正面から写さず、部屋の真ん中で背中を見せて泣くんだよね…。
ここで壁にぶらさがってるコンセントが妙に良い味、部屋のしょぼさ感とか寂しい感じとか出しててすごく印象に残ってます。
それと、祥子の家のお手伝いさん。
急に祥子宅に招かれた世之介が、父母の尋問も終わって気を使って祥子と2人きりにさせるシーンで、なぜかお手伝いさんは少し離れたところの壁際に立ったまんま。
この時、お互いに告白し合って、正式に付き合うことになるんだけど、このいじらしくもじれったいシーンの合間に、ちょいちょいお手伝いさんの顔が挟み込まれる。
その顔が、「あんたどうすんのよ?言うの?言っちゃうの?言っちゃうの?」とでも言いたげな興味津々の、顔は逸らしてるんだけど目はしっかり向けてるみたいな、そういう顔の可笑しさで笑えるとこになってるんだけど、これが後の展開で効いてくるとは!
スキーで骨折して入院している祥子を世之介がお見舞いに行って、「事故ったら真っ先に知らせてくれよ、俺が事故ったら真っ先に祥子に連絡するよ」と言われた祥子が泣いちゃいそうな顔をしたあと、「今から世之介さんのことを呼び捨てにします」って言って呼び捨てで呼び合うシーン。
ここで祥子のはっきりした声で、「世之介。」って呼ぶ、この声の強さ、たくましさ、凛々しさ、なんというかまあ芯のある感じの声で、ここ素晴らしいシーンでしたよ!!ここも泣いちゃったな!!
吉高由里子は、なんというかわざとらしい演技をしそうだ、って漠然としたあまり良くない印象を持っていたんですが、この映画のお嬢様役はそれを上手く活かしていたように思います。このシーンの「声」で、一気に評価が上がりました。
で、このシーン、また病室の壁際にお手伝いさんがいてまたもちょいちょい顔が挟み込まれるんです。
はじめのうちは、なるほど天丼だね、って思いながらもまあ面白いんですけど、2人が呼び捨てし合うところでお手伝いさんの顔がだんだん崩れて終いには泣き出しちゃうんですよ。
はは〜またいい顔してるな〜って笑って見てたこっちも、急に崩されて泣いてしまうこの感じ。
笑いから涙へ急にシフトさせられるこの感じ。
素晴らしい!!
ここがこの映画で一番良かったところかも!!
僕はここは、幼いころからずっと見てきたお嬢様が真剣なお付き合いをしている、「世之介。」と呼ぶ声の強さにその真剣さ、真正面から恋愛してる感じを受け取って感動しちゃった、という祥子に思い入れるあまり泣いてしまった、という受け取り方と、
自分はここまで真っ直ぐな恋愛ができなかった、なんて素晴らしい、羨ましいんだろう…と思わず涙、という自分の不遇さ?に泣いてしまったという2つの受け取り方を考えました。
(書いてて後者は違う気がしてきたけど…「不遇」ではないか?)

と、まあ脇役たちがほんとに良かったんです。
準群像劇的な映画になってる分、群像劇大好きな僕としてはもっと世之介の周囲の人物を掘り下げられるようなシーンが欲しかった。
それはこの映画が十分魅力的だったといえるということだと思います。

が、気になるところもあって。
それは、現代の脇役たちが世之介のことを思い出すシーン。
この映画は直接的に現代の世之介がどうなっているかを写さず、ここでだんだんと示されていくんですが(加藤の恋人の男が、その名前聞いたことある、と言っていたのはそういうことか、と納得。)、このシーンがほとんど漏れ無くすべて退屈。
「あっ、そういえばあいつどうしてるかなー」とか、「あんな面白い奴がいたなー」とかみんなの一辺倒の当たり障りないことしか言わないんですよ。
脇役たちの今がわかるのは良いんですけど、それぐらいしか意味がない。
現代の祥子のシーンで、世之介の母から手紙を受け取る、中をあけるとそこにはピントのあっていない犬の写真や、昔の自分の写真が−
で、割とその直後に世之介がその写真を撮っていて、ああこの時の写真だったのか、ってわかるんですけど、こんな回収のされ方をされても…うーん
今の祥子が写真に写った、いかにもお嬢様的なポーズを取った昔の自分を観る、ここでぐっとくるのは結局単にノスタルジーだけで、ここにさえも物語的な意味は全くない。
しかも、書いちゃうけど、現代で世之介は死んでしまっているんですが、この死はほとんど都合が良いものとしか思えない。
死なれたら、祥子はそりゃ悲しむだろう、なんとなく寂しい感じがして80年代の世之介と祥子が輝かしく見えて仕方なくなるだろう、けどそういう着地のさせ方が逃げているように感じる。
世之介が現代も生きていて、それで尚且つ旧友に忘れ去られていたり、元恋人が自分のことをどう思っているのか、とかそっちを描くほうが僕は好みです。

まあ原作がある映画なので、映画そのものはもしかしたら泣かせにかかるようなところを回避しているのかもしれないけど…。

終わり方がそんな感じだったので、評価が下がってしまった感じです。
終わり良ければすべて良し、っていうのは映画の場合ほんとに当てはまると思います。
最後の1カットでグーンと点数アップなものもありますよね。ぱっと今思いついたのは『第9地区』。

個人的に、80〜90年代の日本の雰囲気(広告とか風景とか)が好きなので、Wデートの待ち合わせの背景に車の広告が写ってるのとか、ハワイアン・バーガーショップの雰囲気とかたまらなかったです。
もっと80年代的風景が観たかったなー!



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沖田修一監督の作品。大好き。ラーメン食べたくなる。


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確かこの映画と撮影監督が一緒。
去年観た映画でベスト1。久しぶりに新品ブルーレイを買うほど気に入った映画。
エレファント的群像劇。