『マンディンゴ』

原題:Mandingo(アメリカ/1975)
監督:リチャード・フライシャー
脚本:ノーマン・ウェクスラー
製作:ディノ・デ・ラウレンティス
出演:ジェームズ・メイソン、スーザン・ジョージケン・ノートン、他

★★★★

数少ない(アメリカ映画ではこれと『ジャンゴ 繋がれざる者』くらいだとか)奴隷制度をテーマに描かれた映画。
町山智浩さんの『トラウマ映画館』を読んでからずっと気になっていて、タランティーノが『ジャンゴ』を撮る時に参考にしたという話を聞いてさらに観たい!と思っていた作品です。

『ジャンゴ』は差別される側だった黒人が復讐する、カタルシスを得られる内容だったのに対し、『マンディンゴ』ではひたすら白人と黒人の奴隷関係が描かれていて、黒人を救うような白人も出て来なければ奴隷制度を悪と考えているような白人も出て来ません。
その他、当時の女性観や性意識なども描かれていて、これまたショッキングなものでした。
容赦ない描写が多く、観ていてとてもきついし、不愉快になります。
そういう意味でなかなかリアルに作られているんじゃないかと思える説得力があり、よく出来た映画だと思いました。

パッケージ↓

19世紀半ば、アメリカ南部で奴隷制度が一般化していた時代の「奴隷牧場」を運営する農家が舞台で、このパッケージに写ってる老人がその当主でこの映画の中でも最もガチガチな差別主義者です。
(なぜ黒人の子どもを踏み台にしているのかというと…素足で黒人の子どもの肌に触れていると「リウマチ」の毒を吸わせて移すことができると聞いてそれを実践しているからです。)
『ジャンゴ』でも匂わされていた、黒人女性に性的サービスをさせて客人をもてなす場面もしっかり出てきます。
さらに、タランティーノがとても自分の映画では描けなかったという自分の奴隷への「種付け」(この言葉自体が酷すぎますね)、この言葉が劇中何度も出るように黒人女性奴隷をどのように扱っていたかがこの映画の一つのテーマになっていて、これがまた本当に不愉快になるものばかりで義憤が沸々と湧いてきました。
買ってきたマンディンゴとすでに持っていた奴隷が兄妹関係にあることがわかっても、「化け物が生まれたら殺せばいい」みたいな台詞が平気で出てきたりしてね…。

黒人を救うヒーローのような白人など出てこない、全く救いのない点でこの映画は素晴らしいと思う。
『ジャンゴ』や『イングロリアス・バスターズ』が悪いと言いたいのではなくて、あれは差別の事実をバネとして完全なエンターテイメント映画を作っているのであって、なにかを啓発しようとしているものではないから。
ただありのままに奴隷や人種差別を描いたこの映画は、「差別いくない!」と声高に叫ぶ映画よりもよっぽど身につまされるし、記憶に強く残る。

ほとんど映画で描かれて来なかったテーマを扱っているだけあって、この貴重な映画が最近になってようやく再発され、観れたことは本当に喜ばしいことだと思います。


1960年代アメリカの公民権運動を背景とし、黒人差別を扱った映画。
実話のようで完全なフィクション。これを知った時少しがっかりしました。